TOP私の視点少年少女たちに対する支援のために必要なものについて  
■私の視点  
   
少年少女たちに対する支援のために必要なものについて

イ.信頼しうる大人との関係性の構築  

 少年少女たちが成長する過程で、果たして一度でも又一人でも、信頼できる大人と出会うことができているのかどうかが、彼らが大人へと成長するための鍵となる。親でも教師でも誰であれ、一度信頼できる大人と出会う機会に恵まれることが、彼らの成長の過程において大きな影響を及ぼす。
 彼らは、困難が発生し助けを求めた時に応じてもらったら、「自分の要求が初めて、正に応じてもらいたい時に受け入れてもらって適切なアドバイスをしてもらった」、「これまでは口先だけで上手なことを言うが真剣に話を聞いてもらったことがなかったが、今回は違う」、「変な理屈ではなくて体を張って自分を受け止めてもらった」等々、このような実感を持つはずである。  
 つまり彼らは、それまで苦悩を続けていたが、「信頼できる大人が回りに存在しなかったために、SOSを発信することができなかった」という固定観念を打ち破ることができて初めて、「大人の存在の有難さ」を知る。
 だから、「緊急の対応が可能な大人が存在していること」が必要であり、且つ「彼らと継続性のある関係を保つことができる大人の存在があること」が必要で、大人への信頼感を全く失くしてしまった少年少女たちに対して、「信頼を取り戻すことが可能な、素養と経験を持った大人の存在があること」を知ってもらわなければならない。  

1.様々な場面において、又共同生活することによって、「共に泣き、共に笑い、共に怒る」という感情を、大人と少年少女たち共有し、外面的・内面的交流を図る。
 その際大人は、大人を見る眼力を鋭く研ぎ澄ましている彼らの「助言や指導を求めたい局面」を見逃すことなく、毅然とした姿勢と気概を持って、真剣に彼らの発する要求に応える。  

2.「大人も捨てたもんじゃない」、「ひょっとして自分はこの大人に救われるかも知れない」、「この大人の姿勢は、今までの自分を捨てて変わらざるを得なくしてくれる」等と思わせる体験をさせるために、時間を掛けてその関係性を構築していく。

ロ.自身を高め且つ安心できる生活スタイル・生活空間・環境の模索  

 彼らが、健全な人間関係を構築することを拒否して「パソコンや携帯電話、そしてテレビゲームや漫画雑誌に囲まれていないと安心感を得ることができない生活環境」や「マイナスな影響のみを与える仲間関係」にずっと依存してきたのであれば、それらから一定の距離を置く環境を与える必要がある。
 つまり、対人関係の形成において心を蝕まれ傷を抱えた彼らに対しては、そのトラウマから抜け出す環境を与えることが重要で、それを自身の家庭内において見出すことを第一義とするが、それが不可能な場合は別の場所を提供する必要がある。  
 そして、彼らが置かれていた過去の環境とは異なった環境が準備され、彼らが自身の置かれていた環境を冷静に見つめ直す冷却期間を設けることができる場所を準備する必要もある。  
 環境を変えることは一見単純な作業のようだが、「これまでの自分が置かれていた環境に比べるとまだましだ」、或いは、「環境を変えることによって自分が置かれていた環境は、それほど悲観するものではなかった」等々と、自分が置かれていた環境を見直す機会が与えられるはずである。   

1.逃避していた為に、安住の場所として過ごしてきた住環境から離れ難くなるが、実はそこが、「都合の良い逃げ場」だったと認識させ、「実は勘違いだった」と知らせることができる、場所を提供する必要がある。 

2.「快楽のみを与える空間と、知らず知らずのうちに自身を墜落させている環境」から、抜け出すことは可能だと教える必要があり、同時に、自己発見ができる環境を提供する必要がある。

ハ.自身の所属先の発見  

 少年少女たちは、自身の心を安定させてくれる所属先を求めて彷徨うものであり、その先が、家族の場合もあるし、仕事先の場合もあるし、更には仲間関係の場合もある。
 もしその所属先が発見できない場合は、そして、苦難に遭遇した時に帰って行く場所を持たない場合は、彼らは、心を根無し草のように揺り動かし、一時の休息も許されない状況に貶められてしまう。  
 つまり彼らは、はっきりと自分の所属先を認識していていつかそこに戻ることができるという安心感を持つことができれば、行動の範囲を広げて新しい何かにチャレンジしようとする意欲を芽生えさせ、失敗しても新たに挑戦しようとする意欲を湧かせ、そして、再度エネルギーを蓄えることもできる。
 しかし彼らは、受け止めてもらう所属先がなければ、失敗を恐れ、全てにおいてエネルギーを使うことを臆して、チャレンジ精神を失ってしまい、「今の自分を変えよう」などとは思わなくなる。

1.学校へ通う年齢であれば学校へ復帰させる必要があるし、そうでなければ所属先を職場に求めさせる。また、所属先を家庭に求めさせて家庭復帰に向けて働き掛けをしなければならない。
 いずれにせよ、所属先に戻って行った時や職に就いた時に、少年少女たちと所属先との橋渡しをし、そのための働きかけをする、人的素質を持った仲介者が、存在していなければならない。  

二.社会に対して或いは他人に対して貢献できるという実感の認識  

 少年少女たちは、金や物で単純に自己満足させられるが、金や物によって得られる満足感以上の何かを求めているものである。それが、「自分自身以外の対象に対して何らかの貢献ができることを自覚すること」である場合も少なくない。 
 つまり、「友人の役に立つこと」、「会社の同僚の役に立つ」、「近隣の役に立つ」等の「自分が他人の役に立っている」という自覚を持てるようになれば、自己愛が生じてくるもので、それが実感された時に快楽と達成感を味わうことができる。  
 しかし、殆どの者が「自身のことだけ」で精一杯になり、「他人に対する貢献ができたと自覚したときの満足感」を知らない。つまり、「他人に対して貢献できた」という自覚こそが、自分自身をもっと愛するようになり、そして、他人の痛みを理解するようになるのである。
 だから、犯罪や非行によって他人を傷付けたり無謀な行為で自分自身を傷付けてしまう少年少女たちは、他者に貢献した時に「有り難がられる存在」であることを知れば、行動を改善できるようになる。
 そして、学校において「自身が何かに貢献できていることを実感したことがない」少年少女たちも、仕事に就いた時に潜在能力を充分に発揮し、「自分の職場や、職場の相手先に対して何らかの貢献をした」と自覚することができれば、別の自分を発見することもできるかも知れない。

1.彼らと共に就職活動ができ、その上で「適切な職に就くよう」指導することができる資質を持った大人が必要である。  

2.仲間内での或いは学校内における「他者への貢献」は、職場でのそれとは違うため、彼らに対して「職場では、労働の対価として報酬が得られるが、『職場に貢献しているという実感』を持たせることができる」大人が必要である。

3.彼らは、学校や家庭とは違い、「職場では、『真剣に働くべきだし、我侭な言・行動は許されない』、そして『強制された環境下に身を置くことによって初めて得られる、達成感と貢献感がある』がある」ことを、絶えず教えていく大人が必要である。

4.彼らの潜在能力を見出させることができ、そして職場との連携を上手にこなすことができて適宜アドバイスを提供することができる大人が必要である。

ホ.親(若しくはその代替者)との健全な関係性への軌道修正  

 少年少女たちが最も強く欲していることは、「自身の.親(若しくはその代替者)との健全な関係性を再構築すること」である。いくら他人が、心の交流を持って援助したいと考え彼らにアプローチしても、彼らが心の底から求めているのは、「親(若しくはその代替者)との健全な関係性の修復」なのである。 

1.少年少女たちは、一時期離れていても、帰って行く先は当然.親(若しくはその代替者)の許であるが、そうなるように働きかけすることが最も健全な対応である。そのことを充分理解して援助をすることができる大人が必要である。 

2.親(若しくはその代替者)の側からしても、一時期離れていても、子どもには帰ってきてもらいたいと願っているのは当然で、努力は惜しまないはずである。
 しかし親(若しくはその代替者)は、子どもに戻ってきてもらうにはどのような準備をしたら良いのかわからないことがあるし、切っ掛けを逃していることもあるから、少年少女たちの健全な育成を念頭に置いた適切なアプローチができる、経験豊かな大人が必要である。

3.少年少女たちにとって「親(若しくはその代替者)の存在はいつになっても否定される存在ではない」ことを教えることができ、そして、「親(若しくはその代替者)が彼らの成長過程における阻害要因ではなく、あくまでも親子の関係修復のために努力する」大人が必要である。  

4.少年少女たちにとって、「親(若しくはその代替者)が最も早期に適切に関係を修復させなければならない対象である」ことを充分理解し、且つ関係修復のために「役割意識に徹することができる」大人が必要である。
 

 
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